-その5−
参考図書:片岡寧豊著 「やまと 花萬葉」 (東方出版)
(ひらがなは万葉名、カタカナは現代名)

万葉の花については、万葉集の歌に出てくる花を現代植物に当てはめたもので、
どの花が当てはまるのか様々な説があり、はっきりと定義づけられていないものもあります

つぼすみれ(ニョイスミレ)−スミレ科−
4/18神苑


山吹の咲きたる野辺のつぼすみれ
この春の雨に盛りなりけり
高田女王(巻八−一四四四)


春の終わりの山吹が咲いている野中のすみれ、
春雨の中で真っ盛りに咲いていることよ!

ねつこぐさ(オキナグサ)−キンポウゲ科−

芝付の御宇良崎なるねつこ草
相見ずあらば我恋ひめやも
作者未詳(巻−三五〇八)

ねつこ草のようなあの娘に、もし逢っていなかったら
私はこんなに恋慕ったりはしなかっただろうに・・・

花は左の写真のようすから茎が十数センチほど伸び
釣り鐘形の花を一輪下向き加減につける
その姿は可憐で奥ゆかしい乙女のような姿に見えるが
種子は絹糸のような光沢のある長い毛を伸ばし そのようすは白髪の老人を思わせることから「翁草」と名が付いた
花期:4、5月

ねつこぐさ(ネジバナ)−ラン科−

「ねつこ草」を指すもうひとつの植物が「ねじ花」
別名「もじずり」である

ねじ花は茎の高さが30センチぐらい
花は小さいが蘭とそっくりで
名前のようにらせん状にねじれるように連なっている
花期:6,7月

 

むぎ(オオムギ)−イネ科−
4/23神苑

馬柵越(うませご)しに麦食む駒の罵(の)らゆれど
なほし恋しく思ひかねつも
作者未詳(巻十二−三〇九六)

柵越しに馬が青麦をたべると叱られるように
私があの人と逢ったことで親に叱られた 
それでもあの人が恋しくて仕方がない

大麦 小麦は古い時代に中国から渡来し
重要な穀物だった


すみれ
(スミレ)−スミレ科−

春の野にすみれ摘みにと来し我そ
野をなつかしみ一夜寝にける
山部赤人(巻−一四一四)


すみれを摘もうと春の野に来たけれど 去り難くて一晩寝てしまった

すみれは花も葉も生で食べることが出来る
香水は葉から抽出する、原料はヨーロッパ産のニオイスミレで
バイオレットと呼ばれるもの

わらび(ワラビ)−イノモトソウ科−
4/18:神苑

石走る垂水の上のさわらびの
萌え出づる春になりにけるかも
志貴皇子(巻−一四一八)


萌え出づる春になった喜びを伝える歌


左の新芽はやがてほどけるように開いて羽のように広がり青々と茂る


かには
(ウワミズザクラ)−バラ科−

あぢさはふ 妹が目離(めか)れて しきたへの
枕もまかず 桜皮(かには)巻き 作れる舟に
ま梶貫き 我が漕ぎ来れば・・・・(長歌)
山部赤人(巻六ー九四二)


山部赤人が淡路の海峡を通って 辛荷の島を過ぎた時に作った
妻と別れその手枕もせずに 桜皮(かにわ)をまいて作った舟に
梶を通して漕いでいくと淡路の野島もすぎ・・・・
旅の日が長くなるが どこへ行っても家のことは忘れない・・と続く


ウワミズザクラは桜のイメージとは違い 小さな花が多数集まって
10センチぐらいの穂状になって咲く
赤くなった果実を焼酎に漬けると、苦みが消えて
甘い香りがする美味しい果実酒が出来る
花期:4,5月



つぎね
(ヒトリシズカ)−センリョウ科−
 4/23:神苑

つぎねふ 山背道(やましろぢ)を 他夫(ひとづま)の
馬より行くに己夫(おのづま)し 徒歩(かち)より行けば 見るごとに
音のみ泣かゆ・・・(長歌)
作者未詳(巻十三−三三一四)


大和から奈良山を越えて山城へ行く道を よそのご主人は馬で行くのに
私の夫は歩いていくので 見るたびになけてくる・・・・
・・・母の形見の布を持って行き それで馬をお買いなさい あなた・・・・と続く



一人静は山地に自生し 茎の高さが20センチ程度
白い花糸は3センチほど
「眉掃草(まゆはきぐさ)」とも呼ばれ
ひっそりと人知れず咲いて散っていく
「吉野静」とも呼ばれ 吉野山に舞う静御前に見立てたとも言われる

 

すげ・すが(スゲの総称)−カヤツリグサ科−
4/30:神苑にて

我妹子が袖を頼みて真野の浦の
小菅の笠を着ずて来にけり
作者未詳:巻十−二七七一)

あなたの着物の袖でかくしてもらうことをあてにして
真野浦の小菅で編んだ笠をかぶらずに来てしまった・・・




ふぢ
(フジ)−マメ科−
4/30:神苑


恋しけば形見にせむと我が宿に
植えし藤波今咲きにけり
山部赤人(巻−一四七一)


恋しくなったら形見にして偲ぼうを思い庭先に植えた藤の花が今咲きました

-------------------------------

藤波の花は盛りになりにけり
奈良の都を思ほすや君
大伴四綱(巻−三三〇)


防人司 大伴四綱が九州太宰府の長官 大伴旅人に献じた歌
藤の花の盛りを見ると奈良の都を思い出しませんか?と問いかけた歌。

 


 

その4へ その6へ

万葉の花通信 TOPページへ

 

挿入しておりますmidi作品はMIDIショップ:Music of My Mindさん
「過ぎし日に花束を」です