-その6−
参考図書:片岡寧豊著 「やまと 花萬葉」 (東方出版)
(ひらがなは万葉名、カタカナは現代名)

万葉の花については、万葉集の歌に出てくる花を現代植物に当てはめたもので、
どの花が当てはまるのか様々な説があり、はっきりと定義づけられていないものもあります


つつじ(ツツジの総称)−ツツジ科−
4/24:長谷寺


風早の美保の浦廻(うらみ)の白つつじ
見れどもさぶしなき人思へば
河辺宮人


つつじの花に亡き人を思い 見せてやりたかったのに・・と詠んだ歌
万葉集では白つつじ 丹つつじ 石つつじの名でつつじが詠まれている

 

はながつみ(ヒメシャガ)−アヤメ科−
5/10神苑


をみなえし佐紀沢に生ふる花かつみ
かつても知らぬ恋もするかも
中臣女郎(巻四−六七五)



佐紀の沢に生い茂る花かつみの名のように
かつて一度も知らない激しい恋をすることだってありますよ


佐紀の沢は奈良市佐紀町水上池のあたり
「花かつみ」はマコモが当てられるが 葦 野花菖蒲 
 またはこの姫しゃがと言われる場合がある

ヒメシャガは丈が20センチほど
現在自生地が少なくなっている

 

かへるで(カエデ・カエデ属の総称)−カエデ科−
5/10:近隣

我がやどにもみつかへるて見るごとに
妹をかけつつ恋ひぬ日はなし
大伴田村大嬢(巻−一六二三)


色づいた楓を見るたびにあなたのことを心にかけています
恋しく思わない日はありませんよ

花期:4,5月

 

かほばな(ヒルガオ)−ヒルガオ科−
5/26:東京の路地

高円の野辺のかほ花面影に
見えつつ妹は忘れかねつも

大伴家持(巻八−一六三〇)


高円の野辺にかほ花が美しく咲いているので
その花を見ているとあなたの面影が偲ばれます
家持が妻の坂上大嬢に送ったもの

ヒルガオの若葉やつるは食用になる
生の葉の汁は虫さされに効果がある
花期:6〜8月

 


柘・つみ
(ヤマボウシ)−ミズキ科−
6/4:矢田寺


この夕柘のさ枝の流れ来ば梁(やな)は
打たずて取らずかもあらむ
作者未詳(巻三−三六八)


この夕暮れ、柘の小枝がもし流れて来たら
梁(魚を取るしかけ)を打ってきっと取ってやるぞ!
(柘の枝は美女に化身するというからなあ・・)

 

むらさき(ムラサキ)−ムラサキ科−
6/20:神苑


託馬野(つくまの)に生ふる紫草衣に染め
いまだ着ずして色に出でにけり
笠女郎(巻三−三九五)


託馬野に生えた紫草を着物に染め付け まだ着てもないのに人に知られてしまいました・・・と紫草になぞらえ 恋の思いが実を結ばないうちに人に知られてしまったと訴えている


紫草は茎や葉などの全体に粗毛があり 
夏に小さな花をつける 
根はかわくと赤みを帯び 紫色となり
「紫根染」の原料として用いられた


 

紫草について

万葉集では17首に紫草が詠まれている
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見すや君が袖振る 額田王」(巻一−二〇) 
 紫草が自生地に縄などで囲いをして保護栽培されていたことが察せられる
古代、紫草は貴族が着用する紫の衣服の染色に使われた

現在、紫草は絶滅にひんした希少植物だと言われている

 

わすれぐさ(ノカンゾウ)−ユリ科−
7/19:神苑

忘れ草我が紐に付く香具山の
古りにし里を忘れむがため
大伴家持(巻三−三三四)



家持が九州太宰府の長官だった頃の作
忘れ草を身につけておくと憂いを忘れるという中国の故事にならって着物の紐に結びつけてみたが 効き目があるだろうかと、生まれ育った明日香の都を懐かしんだ歌

 


うり
(マクワウリ)−ウリ科−
7/19:神苑

瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ
いづくより 来たりしものそ まなかひに 
もとなかかりて 安眠(やすい)しなさぬ (長歌)
山上憶良(巻五−八〇二)



都に残してきた子どもらを思い出して詠んだ歌
この長歌の後に有名な反歌(短歌)一首が続く・・・


銀(しろがね)も金(くがね)も玉も何せむに
優れる宝子にしかめやも


金も銀も子にまさるものはありませんよ
子は宝です
恋の歌が多い万葉集の中で子どもを思う歌は珍しい

 


あぢさゐ(アジサイ)−ユキノシタ科−
20016/15矢田寺

あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にを
いませ我が背子見つつ偲ぶはむ

橘諸兄(巻二十−四四四八)

あじさいの花が重なり合って咲くように栄えてください。
花を見るたび懐かしく思いましょう
土壌によって色が変わるので「七変化」とも呼ばれる

 


ねぶ
(ネムノキ)−マメ科−
8/2:伊吹山中腹

我妹子が形見の合歓木は花のみに
咲きてけだしく実にならじかも
大伴家持(巻八−一四六三) 

あなたの形見のねぶの木は花だけ咲いて ひょっとすると実を結ばないのでは・・
あなたの恋も口ばかりではありませんか?と紀女郎から贈られた恋歌への返事

夜間 小葉が閉じて睡眠する
楊貴妃と並ぶ中国の美女の代表、春秋時代の西施は合歓の花のようだとたとえられている
花期:6,7月

 


 

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