-その4−
参考図書:片岡寧豊著 「やまと 花萬葉」 (東方出版)
(ひらがなは万葉名、カタカナは現代名)

万葉の花については、万葉集の歌に出てくる花を現代植物に当てはめたもので、
どの花が当てはまるのか様々な説があり、はっきりと定義づけられていないものもあります

たちばな(ニッポンタチバナ)−ミカン科−

橘は実さへ花さへその葉さへ
枝(え)に霜降れどいや常葉の木
聖武天皇


橘は実、花、葉までも、枝に霜が降ってもますます栄えるめでたい木である。
初夏に咲く小さな花は真っ白でとても甘い香りがする。
果実は直径2〜3センチ、黄色に熟した皮はうすく、
袋の割には大きめの種子が入っている
果汁はゆずのような香がする

 

 

 


うめ
(ウメ)−バラ科−

春さればまづ咲くやどの梅の花
ひとり見つつや春日暮らさむ
山上憶良



春がくれば一番に咲く庭の梅をひとり眺めながら
春の長い一日を過ごすのだろう・・・と宴席で歌ったもの


梅は奈良時代に中国から九州太宰府に伝わり 奈良の都に届けられ宮廷や豪族の邸宅に植えられた
それまでは漢詩には詠み込まれているものの まだ見ぬあこがれの花であった

 

 

 


ささ
(クマザサ)−イネ科−

笹の葉にはだれ降り覆ひ消(け)なばかも
忘れむと言へばまして思ほゆ
作者未詳



笹の葉に薄雪が降って覆いかぶさり
やがて雪が消えるように私が死んでしまったならば
あなたを忘れることができるでしょうか・・・と妻が言うので
いっそう可愛く思われる


笹も竹も新芽を「竹の子」と呼ぶ
この竹の子の皮が茎を包んだまま長く残っているものが笹
早く皮がはがれ落ちるものを竹と区別している

 

 

 

あしび(アセビ)−ツツジ科−
3/31


我が背子に我が恋いふらくは奥山の
あしびの花の今盛りなり
作者未詳(巻十−一九〇三)



あなたに恋する私の思いは
奥山のあしびの花のように今が真っ盛りという思いを歌にしたもの


馬酔木は「足しびれ」とか 「悪し実」から名が付いたといわれ
馬がその葉を食べると酔ったようになる
動物はもちろん 人間にとっても呼吸中枢を麻痺させる有毒植物。
花期3〜4月

 

 

 

もも(モモ)−バラ科−
4/17:神苑


春の園紅にほふ桃の花
下照る道に出で立つ娘子(おとめ)
大伴家持


春の庭園は紅に染まって美しい
桃の花が照り輝く道にたたずむ乙女よ


中国では古くから仙木、仙果と呼び
霊験あらたかな呪力を秘めた植物とされている
お伽噺 桃太郎の伝説にも桃は悪霊を祓い 霊力を持つものと示唆されている。

 

 

 


さくら
(サクラ)−バラ科−

見渡せば春日の野辺に霞立ち
咲きにほへるは桜花かも
作者未詳(巻十−一八七二)


見渡すと春日の野辺に霞が立ちのぼっている
咲き輝いているのは桜の花だろうか・・・


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春雨のしくしく降るは高円の
山の桜はいかにかあるらむ
河辺東人


春雨がしきりに降るこんな日は高円の桜はどんなであろうか


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あしひきの山桜花日並べて
斯く咲きたらばいと恋ひめやも
山部赤人


山の桜が幾日も咲き続けるのだったら、こんなに恋い焦がれることはないんだよ。
すぐに散ってしまうからなあ・・

かはやなぎ(カワヤナギ)−ヤナギ科−


山のまに雪は降りつつしかすがに
この川柳は萌えにけるかも
作者未詳


山あいに雪が降っているというのに 
この川柳はもう銀色の目をふくらませていますよ 
待ちに待った春が 確実にすぐそばまでやってきた・・
という気持ちを詠った歌


花は銀ねずみ色で艶々した毛があり
形が猫の尾に似るところから猫柳とも呼ばれている
花期2〜4月

 

 

 

はは(アミガサユリ)−ユリ科−
4/5神苑

時々の花は咲けども何すれそ
母とふ花の咲き出来ずけむ
丈部真麻呂


四季折々の花は咲くけれども
どうして母という花が咲き出さないのだろうか・・



母というのは 文字通り母親のこととされるが
植物の編笠百合を指すという説がある
内側に紫色の網目模様があり 古くは「母栗」と呼ばれたが 
今は「貝母(ばいも)」と呼ばれている
これは球根が二枚の貝に似ていることから
母と子が寄り合わさった姿に見立てられたもの
花期:3〜4月


さきくさ
(ミツマタ)−ジンチョウゲ科−
4/5神苑

春去ればまづ三枝(さきくさ)の幸(さき)くあらば
後にも逢はむな恋ひそ我妹
柿本人麻呂歌集


春がくるとまず咲く三枝の花のように無事であったなら
いつかきっと逢えるのだから、そんなに恋しがらないでおくれ我が妻よ


晩秋から白銀色のつぼみをつけ 春の訪れを待って咲く
樹皮は和紙の原料に使われ質が良く 虫害を受けにくいので
紙幣や鳥の子紙などに用いられる
花期:3〜4月

かたかご(カタクリ)−ユリ科−
4/5神苑

もののふの八十娘子らが汲みまがふ
寺井の上の堅香子の花
大伴家持

泉のほとりは 大勢集まった水汲みの乙女たちで賑わってます
そんな境内に咲く堅香子の花は何と可愛い花なのだろう


種子を蒔いてから花が咲くまで七年もかかる
花びらが反り返り 下向きに咲くが、夕暮れになると閉じる
葉は二枚だが 花をつけるまでは一枚しか地表に出さず 
別名「かたこ」「かたこ百合」とも呼ばれる


やまぶき(ヤマブキ)−バラ科−

花咲きて実は成らねども長き日(け)に
思ほゆるかも山吹の花
作者未詳


実はならないのに、山吹の花は咲くのが心待たれるものだ・・・


八重咲きの山吹は園芸種で「八重山吹」と呼ぶ。

 


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