-その3−
参考図書:片岡寧豊著 「やまと 花萬葉」 (東方出版)
(ひらがなは万葉名、カタカナは現代名)

万葉の花については、万葉集の歌に出てくる花を現代植物に当てはめたもので、
どの花が当てはまるのか様々な説があり、はっきりと定義づけられていないものもあります


ももよぐさ
(ノジギク)−キク科−
11/27神苑

父母が殿の後(しりへ)のももよ草
百代いでませ我が来るまで
生玉部足国


父母の住む家の裏に生えるももよ草 その花のように長生きしてください
私が帰ってくるまで


ももよ草は「菊」とされる説が有力
菊のエッセンスは鎮静作用、血圧降下作用などがあることが証明されている
菊は桜とともに日本の国花


たけ(タケの総称)−イネ科−
10/20京都嵯峨野近辺

み園生(そのふ)の竹の林にうぐひすは
しば鳴きにしを雪は降りつつ
大伴家持



宮中の竹の林ではウグイスがしきりに鳴いて
春の訪れを告げているのにまだ雪が降っている



はなたちばな(マンリョウ)−ヤブコウジ科−
11/27神苑

我がやどの花橘のいつしかも
玉に貫くべくその実なりかむ
大伴家持

私の家の庭先の花橘は、いつになったら珠として
緒に通せるようにその実がなるのでしょうか


花橘は初夏に咲くみかんの類とされているが 万両とする説もある
「玉に貫くべく」とは 5月5日の節句に用いる薬玉のことで
長寿を祈り 香料を錦の袋に入れて五色の糸で結んだ
その中に入れるものの代用として袋に詰められた



 

うけら(オケラ)−キク科−
9/19神苑にて


我が背子をあどかも言はむ武蔵野の
うけらが花の時なきものを
作者未詳


あなたのことを どう言い表せばいいかわからないほど心が引かれます
武蔵野のうけらの花のように 何時とはなく恋しく思っています



根茎を干したものは 利尿・芳香健胃剤とされ
 殺菌作用があり、カビの発生を防ぐと言われた
正月に祝う屠蘇にも入れられる




まつ
(マツ)−マツ科−
10/4京都詩仙堂 
4/18奈良公園

八千草の花はうつろふ常磐なる
松のさ枝を我は結ばな
大伴家持



多くの花は美しいけれども 色あせ しぼみ散ってしまう
松は緑の葉がいつも瑞々しく、永遠の命を思わせる
松の小枝を結んで幸運と繁栄を祈りましょう


松は「待つ」に由来し 常緑で長命な木であることから 
「神の降臨を待つ木」「祭りの木」「久しく寿を保つ木」などと崇拝される木となった




なし
(ヤマナシ)−バラ科−
4/18,9/11神苑

露霜の寒き夕の秋風に
もみちにけらし妻梨の木は
作者未詳



露霜が冷たく降りる夕方の秋風で紅葉したのだなあ、この梨の木は・・・
(「なし」が「無し」に通じることから、「妻梨の木」は「妻無し」の意味にかけたもの)


万葉歌の中の梨は「山梨」のこと
果実はピンポン玉ぐらいの大きさですっぱい
この山梨が改良されて二十世紀や長十郎が生まれた



はねず(ニワウメ)−バラ科−
4/17神苑

思わじと言ひてしものをはねず色の
移ろひやすき我が心かも
大伴坂上朗女


あなたのことなど思うまいと口では言ってみましたが
私の心はなんと変わりやすいのかしら・・・
まだあなたのことを思い出しています


「はねず色」は桃色よりやや濃い目の紅色のこと
この歌のようすから あせやすい染色であったことが分かる
庭梅の原産地は中国

 

-----------------------------------------

 

 

はねずについては、庭梅、庭桜、木蓮、芙蓉、石榴などの諸説があり
庭梅が通説になっているが、はっきりしていない。
次に木蓮と芙蓉を紹介します

 

はねず(モクレン)−バラ科−

木蓮は中国原産 日本へは古い時代に渡来
種類が多く 白木蓮、唐木蓮、更紗木蓮などがある
万葉集では「はねず色」と詠まれることから
「紫木蓮」が当てはまる

 

 

 

はねず(フヨウ)−アオイ科−
10/7浄瑠璃寺


朝開くと夕方にしぼむ風情が、薄命な美女にしばしばたとえられる

朝、白色の花が午後からは淡紅色に、
夕方から夜にかけて紅色に変化する酔芙蓉は八重咲き


アメリカ芙蓉と呼ばれるものは直径2,30センチもあり 花色も豊富

すすき・をばな・かや(ススキ)−イネ科−
10/13神苑

人皆は萩を秋と言うよし我は
尾花が末(うれ)を秋とは言はむ
作者未詳


みんなは萩を見て一番秋らしさを感じると言いますが
私は 尾花こそ秋の風物だと言いたい


尾花という名前は 薄の花の形が
動物の尾に似ていることからきたもの 
花薄ともいわれ 十五夜に飾られる代表的な草花



 

たまばはき(コウヤボウキ)−キク科−



初春の初子(はつね)の今日の玉箒
手に取るからに揺らく玉の緒
大伴家持


正月、初子の日に頂戴しました玉箒は手に取るだけで 
箒に飾ってある玉が触れあって音をたてています


コウヤボウキはひょろっとした草に見えるが 小低木
高野山でこれを束ねて箒を作ったことから「高野箒」と名が付いた
花期:9〜10月

 




つばき
(ツバキ)−ツバキ科−
3/6椿寿庵

あしひきの八つ峰(を)の椿つらつらに
見とも飽かめや植ゑてける君
大伴家持



峰々の沢山の椿をつくづくと見ていても私は飽きることはない
これを植えたあなたはこの椿のようだ

------------------------------------


巨勢山のつらつら椿つらつらに
見つつ思はな巨勢の春野を
坂門人足

------------------------------------



椿は種類が多い 藪椿、白玉椿、茶人がこぞってめでる「侘助椿」等々
結実して種子は油に 樹木の灰汁は染色用の媒染剤に 炭は漆器を研ぐ材料などに利用される




もみじ
(紅葉・黄葉植物の総称)
11/28神苑

飛鳥川もみち葉流る葛城の
山の木の葉は今し散るらし
作者未詳


飛鳥川にもみじ葉が流れるのを見て
「葛城山の木の葉は もう散っているだろうな・・・」と詠った歌

 


 

その2へ その4へ

万葉の花通信 TOPページへ

 

挿入しておりますmidi作品はMIDIショップ:Music of My Mindさん
「過ぎし日に花束を」です