−その2−
参考図書:片岡寧豊著 「やまと 花萬葉」 (東方出版)
(ひらがなは万葉名、カタカナは現代名)

万葉の花については、万葉集の歌に出てくる花を現代植物に当てはめたもので、
どの花が当てはまるのか様々な説があり、はっきりと定義づけられていないものもあります

つきくさ(ツユクサ)−ツユクサ科−
2001:7/6

月草に衣は摺らむ朝露に
濡れての後はうつろひぬとも
作者未詳




月草で衣を摺り染めにしよう
朝露に濡れて色があせてしまうことがあっても・・・

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朝咲き夕は消ぬるつきくさの
消ぬべき恋もわれはするかも
作者未詳


朝に咲いて夕べに消えるつきくさのように
はかない 身も消え入りそうな恋を私はしてしまった・・


この花は染料として古くから使われたが、色があせやすいのが欠点
このことから万葉歌では 相手が移り気な性格であっても
心ひかれる思いを月草にたとえて詠んでいる

うはぎ(ヨメナ)−キク科−
9/19神苑

春日野に煙立つ見ゆ娘子らし
春野のうはぎ摘みて煮らしも
作者未詳




春日野に煙が立っているのが見える
おとめ達が春のうはぎを摘んで煮ているらしい

嫁菜のこと
春の摘み草であり、食用にされていた
秋に清楚で可憐な花を咲かせる

いちし(ヒガンバナ)−ヒガンバナ科−
9/19神苑

路の辺のいちしの花のいちしろく 
人皆知りぬわが恋妻を
柿本人麻呂



いちしろく とは はっきりとという意味
道端に咲く彼岸花は炎のように真っ赤に咲き 人の目につく
私の恋しい妻のこともその花のように皆に知られてしまった

別名、曼珠沙華
「赤い花」「天上の華」という梵語に由来する。

ふじばかま(フジバカマ)−キク科−
9/19神苑

萩の花尾花葛花なでしこが花
をみなへしまた藤袴朝顔が花
山上憶良



秋の七草を名調子で詠んだ歌
切り取って乾燥させると、生乾きのころに桜餅のような甘い香りがする 中国では身につけたり 浴湯に入れたり 洗髪に使用された

いね(イネ)−イネ科−(写真は赤米)
9/19神苑


稲搗けばかかる我が手を今夜もか
殿の若子が取りて嘆かむ
作者未詳



稲を搗いて荒れた私の手を今夜も館の若君が見てふびんだと悲しむでしょうか

当時は一食ごとに臼で搗いていた 赤米のご飯は少しパサついているが 香ばしい味がする

ゆみ(マユミ)−ニシキギ科−
10/2神苑

南淵の細川山に立つ檀
弓束巻くまで人に知らえじ
作者未詳



檀の木は弓を作る材料に用いられており
弓束に皮や桜の革や桜の皮を巻きつけて弓を仕上げるこのことから 「2人の恋がかなうまで 人に知られないようにしよう」という意

秋から冬にかけて青い実がピンク色に染まり 
熟すと外皮が四つに裂け 
中からまっ赤な皮を被った種子がのぞく

山管(やますげ)(ヤブラン)−ユリ科−
9/19飛鳥寺

咲く花はうつろふ時ありあしひきの
山管の根し長くはありけり
大伴家持



美しく咲く花はうつろい変わる時がある
山管の根は地味ではあるが 長く変わらないもの
この根のように 細く長く生きたいものだ


ヤブランの根は薬用に使われ 秋には瑠璃色の実がなり、子供の遊び道具になった

たで−タデ科−
10/2神苑

我がやどの穂蓼古幹(ふるから)摘み生ほし
実になるまでに君をし待たむ
作者未詳



庭の穂蓼の古い茎を摘んで新しいものを育て 
また実がなるまであなたを待っています


種類が多く写真の花は不明
蓼の葉は苦みがあり
『蓼食う虫も好き好き』の語源となっが 
現代人の嗜好に合うらしく
 おおいに利用されている

あわ(アワ)−イネ科−
20018/24

ちはやぶる神の社しなかりせば
春日の野辺に粟蒔かましを
娘子



神の社さえなければ
春日の野辺に粟を蒔きたいのですが・・・・


今はあまり栽培されなくなり 粟おこし 粟だんご 小鳥の餌などに使われる程度 
粟のルーツは猫じゃらしの名で知られるエノコログサといわれている 
秋には穂が重く垂れ下がる

からあゐ(ケイトウ)−ヒユ科−
2001:9/11

秋さらば移しもせむと我が蒔きし
韓藍の花を 誰か摘みけむ
作者未詳



秋が来たら染料にしようと蒔いておいた韓藍の花を
誰が摘んでしまったのだろう


「韓藍」とは韓の国から渡来した藍(染料になる草)の意
「鶏冠草」(からあい)とも書かれ 鶏頭の古い呼び名
万葉時代は摺り染めに使われた

−わた−
8/27神苑にて
風雑へ 雨降る夜の 雨雑へ 雪降る夜は・・・・・
人並みに 吾も作るを 綿も無き
布肩衣の 海松(みる)の如
わわけさがれる襤褸(かかふ)のみ 肩にうち懸け・・・・(長歌)
山上憶良(巻五−八九二)


時代の貧しさを詠った歌
人並みに田を耕しているのに綿もなく 粗末な布の衣服を肩にかけている・・・・

綿の実のはじけるところ

 


 

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